パッシブデザインとパッシブハウスの違いとは?メリット・デメリット解説
こんにちは、ゆうすけです。
今回は「パッシブデザインとパッシブハウス」について詳しく解説します。
家づくりをはじめると、「パッシブデザイン」や「パッシブハウス」、「パッシブ設計」といった用語を耳にすることがあります。
パッシブ(passive)とは「受動的な、受け身の」といった意味の英単語で、アクティブ(active)の対義語です。
では「パッシブハウス=受動的な家」とは、どういう家なのでしょうか?
そこで今回は「これから住宅購入を考えている方」向けに、パッシブ住宅について解説します。
こちらの記事を読むことで、次のようなことがわかります。
- パッシブデザインとパッシブハウスの違い
- パッシブデザインとは建築の設計手法
- パッシブハウスとは民間研究所の省エネ基準
- パッシブデザイン(パッシブハウス)で家を建てるメリット・デメリット
- パッシブ住宅で失敗しないための3つのポイント
パッシブデザインとパッシブハウスの違い
パッシブデザインとパッシブハウスはどちらも「パッシブ」というワードが入っていますが、言葉の意味が違います。
パッシブデザインとは、「自然のチカラを最大限に活かして、家を快適にする」という環境先進国ドイツで発展した建築の設計手法です。
パッシブデザインと同じ意味として、「パッシブ設計」や「パッシブ住宅」というワードが使われることもあります。
一方、パッシブハウスとはドイツのパッシブハウス研究所が、独自で定めた省エネ基準をクリアしている住宅のことを意味しています。
この関係を例えるならば、パッシブデザインが一般用語の「宅配便」、パッシブハウスはヤマトホールディングスの「宅急便」というようなイメージです。
パッシブデザインとは建築の設計手法(概念)
パッシブデザインとは、次のような5つの項目についてしっかりと検討されたデザインを意味しています。
パッシブデザインの五原則
- ①断熱
- ②日射遮蔽
- ③通風
- ④昼光利用
- ⑤日射熱利用暖房
それぞれどのようなポイントを押さえることで、パッシブデザインになるのか見ていきましょう。
原則①断熱
パッシブデザインの1つ目の原則は「高い断熱性能」です。
パッシブデザインは断熱、つまり熱をコントロールすることで、冬暖かく夏涼しい住宅を実現します。
断熱性能を表す指標として「UA値」が一般的に使われており、UA値によって次のようにレベル分けすることができます。
パッシブデザインに明確な性能基準はありませんが、日本の政府が2030年までに義務化を目指している「ZEH」レベル以上の断熱性能を確保できていれば、現時点では比較的断熱性能に優れた住宅と考えることができるでしょう。※1
原則②日射遮蔽
日射遮蔽とは、夏の日差しによって室内が温められることを避けるための設計手法です。
日射遮蔽として一般的に設計に用いられるものは、(1)ルーバー、(2)庇、(3)シェードなどです。
また日射遮蔽性能を示す指標には、「ηAC値(イータエーシー)」が一般的に用いられており、断熱性能を示す「UA値」とあわせて考えることが大切です。
ちなみに、国の省エネ基準(断熱等級4)においてηAC値は2.8~3.2の範囲で定められています。
特に日射量が多い太平洋側の地域や、南斜面の土地でパッシブデザインの家を建てるためには、日射遮蔽がとても重要なポイントになります。
原則③日射熱利用暖房
日射熱を利用して暖房いらずで室温を上げる手法を「日射取得」と言います。
日射遮蔽が夏場の日射を避ける設計手法であるのに対して、日射取得は冬場の日射を取り込む設計手法です。
日射取得の性能を示す指標として、「ηAH値」が一般的に使われており、この数値が高いほど日射取得性能が高いと言えます。
そして日射取得は、特に日本海側の日射量が少ない地域や北斜面の土地に家を建てるときに重要なポイントです。
原則④通風(自然風利用)
パッシブデザインでは、太陽からの熱エネルギーだけでなく、通風による空気の循環も行います。
一般的に空気は温められると上昇し、冷やされると下に溜まるという特性があります。
この特性を理解して設計を行い、窓やシーリングファンを適切な位置に設置することで、家の中の通風を促すことができます。
たとえば、夏は吹き抜けを利用して天井近くに溜まった暖かい空気を天井近くの開口部から押し出し、冬はシーリングファンで暖かい空気を家全体に循環させるような設計を行います。
原則⑤昼光利用
昼光利用とは、照明の代わりに自然光を利用して、家の中を明るく照らす設計手法です。
たとえば、吹き抜けや階段などの近くに窓を設置して、白壁で光を反射させることで、開口部から離れた場所を自然光で照らすことができます。
パッシブハウスとは民間研究所の省エネ基準
高性能住宅の家づくりを考えている方のなかには、「パッシブハウス」というワードを聞いたことがある人もいるでしょう。
ここでは、パッシブハウスの具体的な意味や基準について見ていきましょう。
パッシブハウスの定義
※2
パッシブハウスとは、ドイツのパッシブハウス研究所が定める性能基準を満たした省エネ住宅のことです。
パッシブハウスの性能基準は、世界トップレベルと言われるほど高い基準で設定されており、世界を見渡してもパッシブハウスの性能基準を満たしている住宅はそれほど多くありません。
パッシブハウスの基準
パッシブハウスはパッシブデザインとは異なり、3つの明確な性能基準が定められています。
パッシブハウスの基準※2
- 冷暖房負荷が各15kwh/m2以下であること
- 気密性能として50Paの加圧時の漏気回数0.6回以下であること
- 一次エネルギー消費量(家電も含む)が120kWh/m2以下であること
この基準を満たしたパッシブハウスは、ヨーロッパの典型的な建築物が消費するエネルギーの90%を削減できます。
パッシブハウスの認定
家を新築してパッシブハウスの認定を受けるためには、パッシブハウスハウス研究へ審査を依頼する必要があります。
まずは計画時点で性能基準を満たせるかどうかを確認して、規定を満たしていれば仮認定書が発行されます。
その後、施工後に躯体性能試験を行い、正式な認定書が発行されます。
日本でパッシブハウスを実現するには
日本でパッシブハウスを実現するためには、「パッシブハウス・ジャパン」と呼ばれる社団法人へ問い合わせるか、会員認定を受けた工務店で設計・施工を行い、審査を依頼する必要があります。
パッシブハウスとZEHの違い
世界的な省エネ基準であるパッシブハウスに対して、日本には政府が2030年までに義務化を目指している「ZEH」と呼ばれる省エネ基準があります。
ZEHとはネット・ゼロ・エネルギー・ハウス、いわゆるエネルギーの収支がゼロになる住宅のことです。
パッシブハウスとZEHの違いを比べると、住宅性能ではパッシブハウスの方が性能が高いと言えます。
たとえば断熱性能を示すUA値で考えると、ZEH住宅は0.6以下であるのに対して、パッシブハウスは0.2~0.3程度になります。
パッシブハウスの予算・価格
パッシブハウスのような高性能住宅を建てたいと思ったとき、「コストはどれくらいかかるのか」と疑問に思う方も多いでしょう。
ここではパッシブハウス・高気密高断熱住宅・一般住宅の坪単価を比較してみましょう。
パッシブハウスの価格相場
- パッシブハウス・・・坪単価80万円~90万円程度
- 高気密高断熱住宅・・・坪単価65万円~80万円程度
- 一般住宅・・・坪単価50万円~70万円程度
パッシブハウスの直接コスト(住宅本体の建築工事にかかるコスト)は一般的な住宅と比べて、数百万円単位で高くなります。
またパッシブハウスの認定を受けるためには手続きや審査が必要で、証明書の発行だけでも50,000円の費用がかかります。
さらにパッシブハウスの施工を行っている工務店は、独自の計算ソフトを導入する必要があるため、それらの間接的なコストも消費者である住宅購入者の負担になります。
このように、パッシブハウスの実現には、家本体の建築にかかる直接コストだけでなく、間接コストがかかっていることを理解しておくべきでしょう。
パッシブデザイン(パッシブハウス)で家を建てるメリット・デメリット
ここまで、パッシブデザインやパッシブハウスについて解説しました。
ではパッシブな設計の住宅を建てると、どのような良い面や悪い面があるのでしょうか?
ここではパッシブデザインのメリット・デメリットについて見ていきましょう。
パッシブデザインで家を建てるメリット
- 室温・湿度が安定して健康で快適な暮らしになる
- 省エネ住宅でさまざまな恩恵が受けられる
- 資産価値の高い住宅になる
パッシブデザインで家を建てる最大のメリットは、「健康で快適な生活」です。
家を建てる目的は人によってさまざまですが、ほぼすべての人に共通する目的は「家族が健康に暮らせる」ことではないでしょうか?
現代の住宅は、高度経済成長期に建てられていたような住宅と比べると飛躍的に住宅性能が向上しています。
しかしながら、日本の住宅性能を世界基準で見ると、まだまだ日本の住宅は発展途上と言わざるを得ません。
パッシブデザインやパッシブハウスは、国が定める最適基準よりもはるかに高い性能で家を建てることができるため、家族の健康的な生活を支えられる家になります。
そして、もちろん国の基準もクリアできるため、省エネ住宅として税制優遇や補助制度を利用することができます。
たとえば、次のような補助制度や税制優遇を利用する場合には、積極的にパッシブデザインの省エネ住宅をおすすめします。
省エネ住宅のメリット
- フラット35Sの利用
- グリーン住宅ポイント制度の利用
- 固定資産税の軽減措置の利用
- 住宅購入資金の贈与税非課税枠の利用
さらにパッシブデザインによって省エネ住宅を建てることで、将来的にも資産価値が下がりにくい家となり、中古物件として売却を考えたときは高値がつきやすくなります。
パッシブデザインで家を建てるデメリット
- 初期コストだけでは費用対効果を実感にしにくい
- 間取りやデザインに制限がかかる
- 土地・施工会社が限られる
パッシブデザインで家を建てるデメリットは、さまざまな制限を受けることです。
たとえば、窓周辺のデザインには十分な検討が必要で、東西採光を減らして南面採光を意識した間取りになることも多いです。
さらにパッシブデザインを十分に活かせる土地は多くなく、パッシブデザインの設計や施工ができる地元工務店も限られます。
パッシブデザイン(パッシブ設計)の家で失敗しない3つのポイント
パッシブデザインのメリット・デメリットを理解したうえで、家づくりを始める場合には、次の3つのポイントに注意することが大切です。
- ①土地選びは工務店と一緒に
- ②トータルコストを意識する
- ③トータルバランスを意識する
注意点①土地選びは工務店と一緒に
パッシブデザインの家を実現する上でまず最初に注意すべきことは「土地選び」です。
注文住宅を建てる方のなかには、土地を先に選んでしまい、思い描いていた家を建てられないと悩んでいる方もいます。
特にパッシブデザインの住宅は、土地の条件によって性能を十分に発揮できるかどうかが変わってきます。
たとえば、南側に大きな住宅が建っているような土地では、南面採光が難しくなるため、パッシブデザインの要素である「日射取得」が難しくなります。
このようにパッシブデザインを実現しやすい土地には条件があるため、設計や施工を依頼する工務店や設計事務所とともに土地購入を行うことをおすすめします。
注意点②トータルコストを意識する
パッシブデザインの家を実現するときは「トータルコスト」を意識することも大切です。
もちろん性能が高いサッシや断熱材、工法を使用すればより快適な家を実現することは可能ですが、コストパフォーマンスは性能が高くなるほど感じにくくなります。
つまり、コストをかけるべきポイントと削減すべきポイントをしっかりと見極めて、コストのかけすぎにならないよう予算配分することが重要になります。
注意点③トータルバランスを意識する
パッシブデザインの住宅は一般的に住宅と比べて、建設コストが高くなるため、建築以外の部分(家具や外構)がおそろかになりやすいです。
しかし暮らしの快適さを決める要素は、住宅性能だけではありません。
たとえば高気密・高断熱で超高性能な住宅だったとしても、家具がなければ生活空間にはなりません。
また家の中だけでなく、家の外も生活空間の一部になるので、外構と建物のバランスも快適な家づくりには欠かせません。
このように、住宅というハコだけでなく、インテリア(家具)やエクステリア(外構)も合わせて計画する必要があるのです。
家づくりをはじめて勉強していくうちに、住宅性能ばかりに目を取られてしまうと、それ以外のことがおそろかになってしまうので、常に「トータルバランス」を意識するように心がけましょう。
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まとめ
今回は「パッシブデザイン」について詳しく解説しました。
こちらの記事の内容を簡単にまとめます。
パッシブデザインとパッシブハウスの違い
パッシブデザインは設計手法、パッシブハウスは独自省エネ基準
パッシブデザインとは
自然のチカラを最大限に活かして、家を快適にする建築の設計手法
パッシブデザインの五原則
- ①断熱・・・熱が逃げにくい家にする
- ②日射遮蔽・・・夏場の日射を遮り、室温が上がらないようにする
- ③日射熱利用暖房・・・冬場の日射を利用して室内を温める
- ④通風(自然風利用)・・・風を利用して空気の循環を行う
- ⑤昼光利用・・・自然光を活かして照明いらずで室内を明るくする
パッシブハウスとは
典型的なヨーロッパの建築が使用するエネルギーの90%を節約できるほどの効率な省エネ住宅の基準のこと
パッシブハウスとは民間研究所の省エネ基準
- 冷暖房負荷が各15kwh/m2以下
- 気密性能として50Paの加圧時の漏気回数0.6回以下
- 冷暖房負荷が各15kwh/m2以下
パッシブデザイン(パッシブハウス)で家を建てるメリット
- 室温・湿度が安定して健康で快適な暮らしになる
- 省エネ住宅になることでさまざまな優遇が受けられる
- 資産価値の高い住宅になる
パッシブデザイン(パッシブハウス)で家を建てるデメリット
- 初期コストだけでは費用対効果を実感にしにくい
- 間取りやデザインに制限がかかる
- 土地・施工会社が限られる
パッシブ住宅で失敗しないための3つのポイント
- ①土地選びは工務店と一緒に
- ②トータルコストを意識する
- ③トータルバランスを意識する
参考文献・出典
※1 国土交通省「脱炭素社会に向けた住宅・建築物の省エネ対策等のあり方検討会」